『二酸化マンガン と 偏愛日記』

 

愛してる。他にこの核爆発的な思いをなんと呼ぶの?
ウランよりも強いエネルギーでありとあらゆるものと結合するこの思い。物理法則も関係無し。まさに愛。


二酸化マンガン と 偏愛日記



あぁ、なんといったらいいのでしょう。宇宙の生い立ちより複雑なこの現象、どんな言葉で説明したって足りないわ。
それでもそうね、海を水だと表現するぐらいざっくりとなら言ってあげなくもないわ。


あたしの愛してるのは人形。
ちょっと待って!あなた方読者が考えてる安っぽいそこら辺の石みたいのじゃないわよ。
ミトコンドリアを動物細胞と間違えるぐらい失礼よ。酸素に土下座でもしてらっしゃいよ。

そうね一酸化炭素中毒で死ぬような哀れなあなた方、人類に母なる海より深い気持ちで説明してあげるわ。
そもそも人形なんて簡易名称を使ったあたしが間違えだったのね。彼や彼女なんかの代名詞でも全然足りないわ。
だいたいどんな賛美の言葉を並べても飽和状態になんかなりやしなの。

それでも表現するなら一等星より輝いて雪の結晶より美しく
サインコサインより美麗な曲線S波とP波がまとめてくるより強い振動!
やはり原始地球よりも熱いこのあたしの思いはどうしたって表現しようが無いわ。
あたしの前では断熱材もオームの法則も無効なのよ。
ほら数式でも例外っていうのがあるでしょ、まさに愛とはそれなのよ。
莫大な行き場の無いエネルギーよ、いくら放電したって減ったりしないの。
あたしが鉄だとしても絶対にさび付いたりしない。イオン化傾向がいくつだって無関係なのよ。


・・・ん、そうね。それでも名称がないのはやはり不便ね。酸素の言葉を使わず嫌気性細菌を説明するようなもんよ。
それじゃあ、なんて名前がいいかしら。本名?いや、だめよ。それは確かに書いてあったけれど・・・。絶対ダメ!
だって、あの麗しのお名前を耳小骨で増幅させてうずまき管で伝えられたりリンパ液を振動させるわけででしょう!
いくら単細胞のような人たちでもその音に聴細胞があまりの美しさに解けてしまうわ。
それどころか連鎖反応で何か起こしかねないわ。

だから仮の名称で呼びましょう。あたし自身本当のお名前を口にするなんて、そんなもったいない事ができないわ。
あたしみたいなどっかの人間がとばした動かない衛星のような回収されない銀河のごみよ。
・・・別に衛星を馬鹿にしてるわけじゃないわ。ただ彗星みたいに美しくないって言いたいだけよ。

あたしの無駄なおしゃべりなんてニュートンの法則並みに一部の人には無駄ね。さて、話を戻りましょう。
つまり、なんと称するべきなのか。悩
むわ、これは正弦定理と重複順列と不定積分を複合させた問題より難しいわ。
悩むわ、すごく悩む。


右脳と左脳をフルに使って考え出した結果、そんな言葉はない。
・・・というのは今の大気圏の成分並みに皆知ってることでしょうね。
だから、こうしたの。どんな言葉も絶対的に無意味だったら、あたしが我慢して適当な言葉を使うしかないの。
分かる?愛犬をネコ目イヌ科哺乳類ですって説明するするぐらい歯痒いのよ。
太陽光を可視光線でしか説明できない愚かさなのよ。


まったく憂鬱だわ。
プリズム幼生で止まったウニの気分よ。
あと少しなんだからプルテウス幼生にさせて成体させなさいよ。


えっ?それでなんて呼ぶのかって?・・・神様よ。
文句ならあたしの方がいっぱいあるわ。そりゃあ頭を叩いて死んじゃう細胞並みにね。
それでもあたしの愛は信仰者の域にあるのは自分でも理解してるわ。だから、神様。
・・・正直納得してないんだけどね、たとえるならデッサン途中なのに観察してた細胞が死んだ気分。

あの人形は神様なのよ。リアリズムな科学者でも信じちゃうような神様。
いや、科学者だけじゃないわ。ニヒリストも人間不審者も信じちゃうの。
S極とS極でもくっついちゃうぐらい巨大な磁力で水が上ってくような莫大な水力よ。
それぐらいの力が神様には持ってるのよ。


・・・いや、でもやっぱり神様って言葉も不似合いね。天秤に水素とカリウムを乗せてる感じ。簡単に分かるって事よ。
そもそも神様って言葉のイメージが強すぎるわ。植物細胞って聞いてすぐ細胞壁を思い浮かべるレベルだもの。
ああゆう固定概念って、あたし嫌いなの。だって何も発見しようとしない愚か者の行為でしょ。
そんなんじゃいつまでたってもニュートンにはなれないわ。まぁ、なりたくもないしなれないんだけどね。


・・・人形、ってことにやはりなるのかしらね。何度も言うようだけど、あんた達が思ってるようなのじゃないわよ。
固定概念を捨てなさいね。取り合えずその水銀のよう麗しの人形が出会った経緯ね。
愛の引力としか表現しようのないドラマチックな出会いだったわ。
陸と海よりロマンチックな雷がおちるよりエネルギッシュだったわ。
思い出すだけで神経分泌細胞がどうにかなってしまいそうだわ。

一目ぼれよ、エレクトリックな一目ぼれ。
大陸移動説より壮大な愛の始まりだったわ。

できることなら触れてみたい。それは出会った当初からずっと思い続けてたこと。
でも、それは地球の自転を逆にするぐらい不可能なこと。
・・・恐れ多いのももちろんよ。

体の無い幽霊のあたしが物体に触れようなんて、メンデルでもダーウィンでも不可能なことよ。









   -END-