『煙に 翻弄された 猫 』



「犬のおまわりさん♪困ってしまって、にゃんにゃんわわん♪にゃんにゃんわわん♪」
「混ざってる混ざってる。」
まさかのミックス。でもありがちなミスだよなぁと思いながら、歩く。
結局あの後、勉強することはなく馬鹿を反省することもなく学校を出た。
今は5時半、日が長くなってきているのでまだお日様は元気いっぱいだ。
UVカットとか気にする年じゃないけど、ひりひりして痛い。
「でもさぁ、あれって結局、猫はどうなるんだろうねー。」
「あぁー・・・わからねぇ。」
だいたいちゃんと歌詞も知らないぞ、俺。童話系はあまり両親から聞いた事はない。
子守唄は確か、主に父が歌う六時台のアニメのエンディングだった気がする。
思い出してなんだか複雑になる。母の方は無言で頭を撫でてくれたっけ。
「猫は迷子のままですよ、おっさん。」
まだ子守唄を歌う世代じゃないんだが、相変わらずの固定名詞だ。
声のするほうを振り向くと・・・あれ?居ない。


「ぎゃあああ!やめてください。離れてください!訴えます!」
居たけど羽衣石にハグをされて帽子を落として足掻く手しか見えない。
さて、俺はどうするべきだろう。
@羽衣石を引っ剥がす。
A謎の光景を無視して猫に話しかける。
Bあえて何もせず見届ける。
ちなみに俺が選んだのはC写メを撮る。前回の腹いせだ。
「カシャリって音がしたんですけど、なにやって。うあぁぁぁ!!」
「可愛いーぃ。ゆうゆう、この子ほしい!持って帰っていい?」
「僕に許可を取ってください!頑固拒否です。いや、撫でないで!」
こんなにビックリマークを乱用するキャラだったっけ、こいつ。
・・・おぉ、押し倒されてる。流石にアウトだろ、これ。
「おーい、羽衣石くーん。ほどほどにしないぞ先生に言うぞー。」
「でも可愛いよ。俺、弟も欲しいって思ったところだったんだ、今。」
「思いつきで拉致らないでください。舐めるな撫でるな触るな!」
ついに敬語放棄しやがった。気のせいか声も荒げてる。


「マルいち実行ー。ぺりっと引っ剥がすぞ、羽衣石 志。」
「さっさと実行してください、まったく。これだから、おっさんは。」
「・・・・作戦変更、羽衣石、何を手伝えばいいか?」
「裏切り者!社会的追放をうけてください。罰せられてください!」
はいはいっと。俺は羽衣石の首根っこを、それこそ猫を運ぶように持ち上げた。
「裏切り者ーぉ。先生に言いつけるぞ、安芸村 友。」
いや、どちらとも同盟を組んだ覚えがまるでないぞ、俺。
なのに、非難されてるのはWhy?・・・あっ、羽衣石は英語が出来ないのか。


「とんな災難でしたよ、まったく。困ったお友達お持ちですね。」
ようやく立ち上がって服を手でぱたぱたと叩いた。
帽子も二三度念入りにぱたぱたと扇ぐように振り上げる。
一方の羽衣石は俺の袖をちょこちょこ引っ張って
誉められたの?ねぇ、誉められた?っと聞いてる。日本語も残念賞らしい。
「んで、どうしたんだよ。お子様。」
「・・・道なき道に突き進んだ猫の状態です。」
「迷子じゃん。」
「俗に言うとそうのような言い方をしますが・・・・。」
それでは僕が馬鹿みたいじゃないですかっと声には出さなかったが
落胆した様子がひしひしと伝わった。お疲れ様。
「迷子ならうちにおいでよぉ。あっ!父さんは俺のだからね」
普通に母のものだろ。というか、ややこしくするなファザコン。
「遠慮します。拒絶します。嫌です。捕まってまってください。」
「スーパー否定文タイムだぞ、羽衣石。」
「よし強行突破だ!・・・あっ、名前あるの?聞きたいなぁ、お兄さん。」
じりじりと喋りながら近づき羽衣石。おい、俺の後ろに来るな、猫。
・・・にしても、名前か。そう言えば気になってはいたんだが。知らないな。


「個人情報流出したくありません。プライバシー保護の権限を使用します。」
難しい単語がよくまぁ出て来るもんだ。漢字テストで間違えかねないぜ。
ぎゅっと俺のあばら骨を抱きしめられても俺は嬉しくない。ってか向こう行けよ。
「早くなんとかしてください。足カックンしますよ。」
脅し文句のレベルが格段に下がった。別に足カックン怖かねぇーよ。
というか、足カックンを怖がる高校生とかいねぇよ。
「えぇ〜?名前教えてくれないの?そうりゃあ、友とはどういう関係?」
ややこしいの塊だな、羽衣石。俺に話をふるなよ、めんどくさい。
「・・・あぁ〜っと、主従関係?」
足カックンされた。後ろからされると確かにビックリする。
いや、だってぶっちゃけなんて説明すればいいか分からないし。
「・・・えっと、なんだ。何にもない関係だ、うん。潔白。」
なんか浮気を疑われている夫の気分だ。ってかなんで俺がこんな目に。
「じゃあ、ゆうゆうは名前知ってる?」
「知らん。」
「じゃあ聞きたいよね。聞きたくて仕方ないよね。」
「異議あり!誘導尋問です。二対一なんて集団暴力です。」
言葉の暴力は圧倒的にお前の方が強いぞ。俺は強引に前に歩いた。
その衝動で手を離し、こけ掛けた猫と向かい合わせになる。
口をぱくぱくさせている。隣で羽衣石が萌え死んでた。楽しそうだな,お前ら。
「さて、お兄さんたちに聞かせろよ。お前の名前。」



俺のセリフは思いっきり迷子の子猫に煙たがられた。