『煙と 困惑する 猫 』


 

 

「なんで、そいつらに会いたいの?」
「そちらの質問は終わったはずだけど?」
羽衣石ウエシの質問にぴしゃりと返事。
ずっと俺のターンとはいかないまでも、これぐらい許してくれてもいい気がする。
元気いっぱいのお日様も6時を超えると少しずつ姿を隠し眠り入るらしくオレンジ色へと変化していった。
いい加減、立つのに飽きた俺たち男性陣は手ごろな場所を見つけて座った。
俺と猫少年は出会った時と同じ場所に、羽衣石は滑り台のてっぺんに。そのまま滑り落ちればいいのに。

「貴方たちの誰かが当事者なのね。」
にやっと可愛らしいお口を広げる鈴さん。さすがこのごろ流行の名探偵鈴だ、などと適当にナレーション。
「「下位三人か!」」
お子様と電波少女のソプラノのハーモニー。
ってちょっとマテ、猫は俺が散々羽衣石の名を叫んでいるので知ってるはずだぞ。
「あの学校の偏差値を下げてる張本人だったなんて、ひどく可哀想です。そう思うと同時に納得できます!」
「P波とS波の違いも分からないって顔をしていたものね。しかし、いざそんな人を目の前にすると笑えないわ」
言いたい放題だ。何か言い返せ、羽衣石。俺にはS波もP波もわかんねぇーよ、かめはめ波しかしらん。
しかしこうやって改めて言われると地味に凹むな。あと、こいつら似てる。やけに上から目線なとことか。
「そうね、当事者だったら理由ぐらい知りたいわよね。」
文字で書くと平坦なんだが、文字にならない隠し笑いが入ってます。
笑うなら笑えよ、口元かくして頬袋をハム太郎みたいにしなくていいからな。
「お父様の出身校の学校の学力を知りたかったの。上か下を知れば検討がつくでしょ。」
「ねぇねぇー、りんりんは頭いいの?」
「・・・元素周期表を覚えてるぐらいよ。飛びぬけてすごいわけじゃないわ。」
水兵リーベ僕の船ってやつだろ。1〜18ぐらいはたぶん、言える、ハズだ。なんか急に不安になるな。


「ふ〜ん。俺、羽衣石ウエシ ユキだよ。よろしくね、俺とゆうゆうの補習!りんりん大先生!」
ぽかーんと口をあけてたれ目を極限に開けてるりんりん大先生。
猫少年は彼女がなにに驚いてるのが知りたいらしく俺の顔を見てくる。俺だって分からん。
「ちなみにーぃ、そっちがゆうゆうこと安芸村アキムラ ユウくんだよぉ。下の名ぐらいリサーチしてよねー。」
なんとなく手を上げて、よろしくと挨拶しようとしたが中断。
バッと効果音が聞こえそうな速さでこちらを見られる。・・・どうしたらいいんだ、俺は。
思わず目線を猫少年へ、何故か困ったように首をすくめられた。困ってんのは俺だって。いや別に困ってない。
羽衣石は自分の名と俺の名を名乗っただけだし。普通だよな、普通の名だよな。


「ゆうゆう勝ったよーぉ!!」
羽衣石の呼びかけて視線を再び元に戻し、慌てる。
「いや!勝ったって言うか、うわ、お前マジサイテー。」
そこには男子高校生の前で土下座する女子高生の図があった。
ねぇーよ。いや、あるんだけど。目の前にあるんだけど、あっちゃいけねぇーよ、これ。
「見損ないました変態さん。今度こそ社会的にこの人と共に追放されてください!」
巻き添えを食らったこの人(俺)だが、今回ばかりは同意見。
起訴大好きな少年と共に砂だらけのところで伊予本イヨモト リンに近寄る。
「ちょっと待って!俺が悪もんみたいじゃん!違うよね、りんりん!」
「誘導尋問はお止めなさい。さっさと謝罪して自首してください!」
先ほど羽衣石の魔の手により色んなところ触れたこともあって厳しい被害者一号。
このままいけば、被害者の会ぐらいできかねないな、などと思いながら二号の肩を起き上がらせる。
「・・・ない。」
「ふぇ?なにがないって?」
か細い声で発せられた声に聞き返す。なんだ、ピンセットなくしたか?だったら見つかりそうだぞ。
あれはすごく乱反射するからな、俺の目を焼き払いかねないぐらいに。あれ、日本語あってるのか。
「悪くないわけないでしょ!そうやって甘やかすから現代社会は崩壊の糸口を広げていくんです。
いいです、こうゆうのが付け上がるとそのうち誘拐したり新聞をお騒がせしたりするんですよ!」
酷い予想だぞ、お子様。たまには加害者の人権も守りやがれ。
体を起き上がらせようと忍者座りみたいに片足をおって姿勢を低くするがうまくいかない。
それにしても驚くほど細い肩だ、というか全体的に線が細い。無理やり起き上がらせてケガされても嫌だしな、俺が。


「顔をあげろよ、羽衣石も怒ってないし。」
そう言って顔を上げて羽衣石の方を向くと、俺の発言に複雑な表情をする羽衣石。
「分かったよ、悪かったよぉ。いや、俺悪くない!でも顔上げて、りんりん!」
ふらっと肩に置いていた手が離れて上半身を起き上がったのが見なくても分かった。
「そうよ!悪くないのよ、貴方は!謝んないでちょうだい!
あたしが勝手に土下座したの!謝るのはあたしの方なのッ!!分かる!?」
言い終わってる頃には立ち上がっていた。目も鼻も真っ赤にして泣きながら立っていた。
お前は転んで立ちあがったチビか、ってぐらい泣きまくった顔。あぁ、美人が台無し。

「いやいや、なんで、どうして名前名乗ったら土下座で泣いているんですか。
学力低いおっさんに聞くのもなんですが、僕ではよく分かりません!説明を求みます!」
「俺も聞きたい、お子様。いや、待てよ。」
そう言えばなんで下位三人が知りたいっていったんだ。
確かうちの学校の学力、いや、父親の出身校の学力。
父親?そうりゃあ、羽衣石もファザコンだ。こいつ(猫少年)に触りながら、なんか言ってたな。
確か、うちに持って帰りたいけど父さんは俺のだから〜とかなんとか。
つまり、なんだ。ダブルファザコン・・・!そうなのか、この娘!
「なんですか、なにか思い浮かんだのならさっさと教えてくださいよ、おっさん。」
「あたし自身が説明するわ。」
そうしてくれると助かる。すっと息を吸って、礼!なに、音楽の時間かなにかか。
「ごめんなさい。どうか私の失態を許して。」
謝罪会見だったらしい。今度は一二の三と、卒業式さながらのタイミングで綺麗に背筋を戻す。
そこだけ見れば日本の美なのだが、泣き顔の為-50点。
姑の如く口煩いくせにこの時ばかりは無言でハンカチを貸す猫さんに+50点。
メガネをとって涙を拭う美人高校生に+100万点。個人的にツボなのだが、マニアックなのだろうか。

「それで、説明してくれる?」
どうやら俺の萌えは伝わらんらしい。
これだからファザコンは、などとほんの少し煙ったく思った。